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歯周外科マニュアル(TAROPE歯周外科セミナー)
歯周外科セミナーやコースで歯周外科の術式や歯周外科のコンセプトを学びたいとお考えの先生へ。 この記事では、自宅や勤務先でも自分で歯周外科が学べる「歯周外科マニュアル」の解説をしています。 私自身、歯周 ...
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私は本来コーヌステレスコープ義歯を装着する際、全歯を対象とすることが多いですが、この患者さんは全歯部がフレアーアウトしていたことと、歯周病の程度が軽症であったため、含めませんでした。
患者概要
年齢・性別
61歳 男性
初診日
2009年8月1日
主訴
歯が揺れる
家族歴
父親は数年前に脳梗塞を患い、亡くなったとの事であった。また兄も数年前に脳梗塞を患ったとの事で現在は定期的に経過を観察しているとのことであった。
母親は骨粗鬆症との診断を受け、現在投薬治療を行っているとの事であった。家族の口腔内状況については不明であるとのことであった。
現病歴
2年前に網膜剥離の疑いがあるとの事でレーザー治療を行い、現在は半年に一度経過を観察しているとの事であった。また数年前に前立腺肥大症と診断され、カソデックス錠80㎎を服薬しているとのことであった。
その他に喘息の既往があるとのことであったが、現在は発作はなく服薬はしていないとのことであった。定期的に血圧を測定しており収縮期血圧は120前後、拡張期血圧は70前後との事で特に問題なかった。その他特記すべき事項は無い。
数年前より近隣の歯科医院にて主に齲蝕の治療を行い、以後良好に経過していた。3ヶ月程前から咀嚼時に46の痛みを自覚していたが多忙のため放置していた。2日前に同部を舌で触れた時に著しい動揺を自覚するようになり心配になったため当科へ来院した。
全身所見
体格は痩せ形で栄養状態は良好であった。前立腺肥大症のために頻尿となっており度々治療が中断する事があった。また喫煙習慣や過度の飲酒習慣は無く、家庭内に喫煙をしているものもいないとの事であった。
口腔内所見
16, 26, 27, 35, 36, 47が欠損していたが、咬頭嵌合位では14, 15, 24, 34, 44, 45が接触しバーティカルストップは維持され、早期接触は認められなかった。前歯部の被蓋が深く、11, 21の歯間離開が認められたが、アンテリアガイダンスは確立されており前方運動時の咬頭干渉は認められなかった。
右側方運動時および左側方運動時に小臼歯部での咬頭干渉が認められた。また11, 21の歯間離開は10代の頃より存在していたとのことであった。その他32・33間の離開と31, 32に叢生が認められた。
初診時のPCRは全体の39.8%であった。14, 15, 17, 24, 25, 33, 34, 37, 44〜46に4㎜以上の歯周ポケットを認め、14, 37, 46に7㎜の歯周ポケットを認めた。デンタルエックス線所見より46に歯根破折とLindhe&Nymanの分類3度の根分岐部病変を認めた。
多数歯にわたる歯肉の退縮と歯根露出を認め、17はLindhe&Nymanの分類1度の根分岐部を認めた。
11〜17, 21〜25, 33, 37, 44〜46にプロービング時の出血を認め、17, 21, 24, 31, 41, 42, 44, 45にMillerの分類1度、34, 46に2度の動揺を認めた。バイオタイプはThick-Flatであった。
全身的リスク因子
特になし
局所的リスク因子
- プラークコントロール不良
- ブラキシズム
- 外傷性咬合
臨床診断
広汎型・重度・慢性歯周炎
治療計画、治療目標(初診時)
①患者教育とモチベーション
プラークコントロールの重要性および外傷性咬合の為害性を認識させる
②感染源の除去
ブラッシング指導、プラークリテンションファクターの除去、全顎的なスケーリング・ルートプレーニングおよび46抜歯
③暫間固定と治療用義歯の装着
プロビジョナルレストレーションによる暫間固定と可撤性部分床義歯の装着
④歯列矯正
11, 21間歯間離開に対する矯正治療
⑤再評価
再評価後、残存する歯周ポケットに対する歯周外科処置および口腔機能回復治療として上下顎に対しコーヌステレスコープ義歯を装着する
⑥メインテナンスへ移行
歯周外科手術の種類とその術式選択の目的
デンタルエックス線所見より13, 14歯根間距離が狭小であった事から歯根形態を修正し歯間部の清掃性を確保する事を計画した。また14, 15に垂直性骨欠損が認められた事から自家骨移植術を併用したフラップ手術を行う事とした。
治療時の留意点(治療計画の修正等)
当初11, 21間の歯間離開に対し矯正治療を行う予定であったが、アンテリアガイダンスが確立していたことと患者本人が希望しなかったことから行わないこととした。
またコーヌステレスコープ義歯の設計は残存歯周組織が安定していたことと前歯部を含めることにより支台歯間の平行性の確保が困難になることから12〜22, 32〜42は義歯に組み込まず、犬歯および小・大臼歯を支台歯とすることとした。
治療経過
2009年10月から2009年12月
患者教育、口腔清掃指導、暫間固定、咬合調整、歯肉縁上スケーリング
2009年12月から2010年12月
抜歯(46)、全顎的スケーリング・ルートプレーニング、暫間固定、治療用義歯装着
2011年2月
13〜15に対する自家骨移植術を併用したフラップ手術
2011年3月から2011年7月
上顎コーヌステレスコープ義歯装着
2011年8月から2011年12月
下顎コーヌステレスコープ義歯装着
2013年3月から
メインテナンスへ移行
特記事項および今後起こりうる問題点
現在、17の歯周ポケットは安定しているが根分岐部が露出しておりプラークが停滞しやすい環境であることから、今後も徹底したプラークコントロールとモチベーションの維持および根面齲蝕の発生、歯周ポケット再発防止に努める予定である。
また生活歯が破折するほど強いブラキシズムを有しているため適切な咬合様式の管理も平行して行っていく予定である。
メインテナンス時の問題点とその対応
患者は日常的に緑茶をよく飲むとの事で義歯及び残存歯が着色しやすいためリコールのたびに歯面研磨を行い歯面および露出根面を滑沢に保つように留意している。
現在のところブラキシズムによる咬合の問題は発生していないが今後も経時的な顎堤の変化など注意深く経過を追っていきたいと考えている。
症例写真
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