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歯周外科マニュアル(TAROPE歯周外科セミナー)
歯周外科セミナーやコースで歯周外科の術式や歯周外科のコンセプトを学びたいとお考えの先生へ。 この記事では、自宅や勤務先でも自分で歯周外科が学べる「歯周外科マニュアル」の解説をしています。 私自身、歯周 ...
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この症例はエプーリスを非外科的に治療した世界的にも珍しい症例です。
わたしの経験から言うとエプーリスは全て切除の対象にならず、『線維性エプーリス』に発展する前段階の『肉芽腫性エプーリス』の段階であれば炎症のコントロールだけで治す事ができます。
どちらにしても切除療法を行う前には炎症のコントロールは必要なので、コントロールした結果エプーリスが消失しない場合は切除するという流れで良いと思います。
患者概要
年齢・性別
63歳 男性
初診日
2009年5月1日
主訴
奥歯の歯ぐきが腫れた
家族歴
両親ともに健在で,66歳の兄との2人兄弟であった。母は喘息の既往があるが、現在は良好であるとのことであった。両親ともに目立った歯科既往歴は無く健康的であるとのことであった。兄に関しても特記すべき全身疾患は無い。
現病歴
6年前に近医にて軽度の脳梗塞であるとの診断をうけコレステロール合成阻害薬であるリバロ錠1mgを処方され1年間服用していた。その後も脳梗塞の発症は無く現在は服薬も必要ないとの事であった。
6か月前より下顎両側臼歯部歯肉にヒリヒリする感じを覚えたが多忙のため放置していた。2か月前より左右臼歯部頬側歯肉の増大を認め,明海大学歯学部付属明海大学病院口腔外科を受診した。47には根尖におよぶ歯槽骨吸収と頬側歯肉に広基性の腫瘤が認められた。腫瘤は抜歯と同時に切除され,病理組織検査により肉芽腫性エプーリスと診断された。さらにパノラマエックス線写真より36・37に垂直性の骨欠損を認めたため歯周病科へ来院した。
全身所見
体格は中等度で栄養状態は良好であった。定期的な健康診断を受けており血液検査で尿素窒素が低値を示していること以外異常所見は認められず通院もしていないとのことであった。また過度の飲酒習慣は無く、現在まで喫煙をした事は無いとのことであった。
口腔内所見
下顎前歯部に叢生と12, 42の反対咬合が認められ,17の頬側傾斜と16, 26の近心傾斜が認められた。下顎大臼歯部はすべて修復処置が行われており、咬合高径の低下は認められたがバーティカルストップは確立されていた。
咬頭嵌合位では不適合な補綴物による早期接触が16, 17, 24〜26, 35, 36に認められ、側方運動時には左右とも犬歯での誘導を認めたが、右側方運動時には第一、第二小臼歯および第一大臼歯で咬頭干渉が認められ、左側方運動時には第一、第二小臼歯および第一、第二大臼歯での咬頭干渉が認められた。
また前方運動時には中切歯での誘導が認められ、アンテリアガイダンスは確立していた。その他15にくさび状欠損が認められた。就寝時のブラキシズムを家族から指摘されているとのことであった。
口腔清掃状態は不良で全体の79.3%にプラークの付着が認められ、プロービング時の出血が全体の28.7%に認められた。デンタルエックス線所見では歯根長の1/3以上の中等度の水平性骨吸収像を多数歯に認め、37, 38の垂直性骨吸収像と37の根分岐部病変を認めた(Lindhe&Nymanの分類1度)。
歯周組織検査では4㎜以上の歯周ポケットを全体の32.2%に認め、7㎜以上の歯周ポケットを16, 17, 37, 38, 42に認めた。また12, 14, 15, 21〜23, 31, 32, 37, 41, 48にLindhe&Nymanの分類1度、11, 16, 17, 24〜26, 38に2度以上の動揺を認め、13, 15, 16, 24, 36, 37頬側歯頸部に広基性の腫瘤を認めた。バイオタイプはThick Flatであった。
全身的リスク因子
特記すべき事項なし
局所的リスク因子
不適合補綴物、外傷性咬合、プラークコントロール不良
臨床診断
広汎型・中等度・慢性歯周炎
治療計画、治療目標(初診時)
①患者教育とモチベーションの向上
プラークコントロールの重要性とブラキシズムの為害性について認識させる
②感染源と歯垢停滞因子の除去
ブラッシング指導、全顎的なスケーリング・ルートプレーニング、プラークリテンションファクター の除去および抜歯
③動揺歯の固定と炎症の安静化
動揺歯の固定、咬合調整およびバイトプレートの装着
④再評価
再評価後、残存するポケットに対する歯周外科処置(臼歯部腫瘤の切除を含む)を行う
⑤口腔機能回復治療
再評価後、口腔機能回復治療
⑥メインテナンスへ移行
歯周外科手術の種類とその術式選択の目的
36遠心・37遠心に2~3壁性の垂直性骨欠損およびLindhe&Nymanの分類の2度の根分岐部病変が疑われたことと左側下顎骨舌側に下顎隆起が認められ十分な量の自家骨を採取出来ると判断したため、骨欠損部に対し自家骨移植術を併用したフラップ手術を選択した。
治療時の留意点(治療計画の修正等)
当初、臼歯部歯肉の腫瘤の切除を行う予定であったが基本治療後腫瘤の退縮が認められたため、深い歯周ポケットが残存する部位に対してフラップ手術を行うこととした。
治療経過
2009年5月から2009年6月
患者教育、口腔清掃指導、暫間固定、咬合調整、歯肉縁上スケーリング
2009年6月から2009年10月
抜歯(38,48)、全顎的スケーリング・ルートプレーニング、バイトプレートの装着、37の根管治療
2009年11月から2009年12月
13, 14, 23, 24に対する再SRP
2010年1月
36,37に対する自家骨移植術を併用したフラップ手術
2010年5月から2010年7月
口腔機能回復治療(37に全部鋳造冠、16, 17, 24〜26にインレー装着)
2010年8月から
メインテナンスへ移行
今後の問題点等および特記事項
現在歯周ポケットの再発もなく歯周組織は安定している。目立った歯列不正は認められなかったが上顎小臼歯部の非機能咬頭が長く、特に14, 24, 25, 34, 35, 44は側方運動時に干渉してしまうため咬合の管理は必須である。
削合による咬合調整だけでは限界があり知覚過敏症状を訴える可能性があったため、バイトプレートを使用し側方運動時の咬頭干渉の管理を行っている。
メインテナンス時の問題点とその対応
エプーリスの発生要因として細菌感染や外傷、内分泌的原因が挙げられている。今回、徹底したブラッシング指導とスケーリング・ルートプレーニングを行ったことにより腫瘤が消退し、現在3か月ごとのメインテナンスを行っているが再発は認められない。
今後起こりうる問題点としてブラキシズムによる咬合性外傷が考えられるため、緊密な咬合の管理とバイトプレートの継続的な使用およびモチベーションの維持を行っていく予定である。
症例写真
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