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歯周外科マニュアル(TAROPE歯周外科セミナー)
歯周外科セミナーやコースで歯周外科の術式や歯周外科のコンセプトを学びたいとお考えの先生へ。 この記事では、自宅や勤務先でも自分で歯周外科が学べる「歯周外科マニュアル」の解説をしています。 私自身、歯周 ...
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この患者さんは 咬合が深く、口蓋に下顎の全歯部が接触するくらい過蓋咬合でした。最終補綴時には咬合を少し挙上しています。
患者概要
年齢・性別
66歳 男性
初診日
2012年2月17日
主訴
歯ぐきから血が出る
家族歴
父親が口腔癌により亡くなったとのことであった。また母親は老衰で無くなっており、晩年は総義歯を装着していたとの事であった。息子が20代の頃に膠原病を発症したとの事であったが現在は問題なく経過しているとの事であった。
現病歴
5年前に左膝関節の感染症により、近隣の医院に一週間入院した。その後は特に問題なく経過している。
また10年前より花粉症を発症し、現在は花粉が飛ぶ時期に市販薬を服用しているとのことであった。血圧は定期的に測定しており収縮期血圧130、拡張期血圧90と特に問題はなく、その他に特記すべき事項はない。
口腔既往歴
5年前に歯痛のため近隣の歯科医院を受診し、歯周病と診断された。歯周治療を行い以後良好に経過をしていたが、1年ほど前よりブラッシング時の出血と左側上下臼歯部からの排膿を自覚するようになったため再度近隣の歯科医院を受診し治療を行ったが、症状が改善せず心配になったため当科を受診した。
全身所見
体格は中肉中背で栄養状態は良好であった。また習慣的な飲酒は無く、喫煙経験も一切無く、家族内にも喫煙をしている者はいないとのことであった。その他に特記すべき事項は無い。
口腔内所見
25, 36, 37, 44, 46, 47が欠損しており、42の咬耗と14, 15, 43の齲蝕が認められた。以前まで局部床義歯を装着していたが旅行先で紛失してしまったとの事で来院時は装着しておらず、バーティカルストップは維持されていなかった。
前歯部の被蓋が深く前方滑走運動時の咬頭干渉が認められ、アンテリアガイダンスは確立されていなかった。
14, 24, 26が挺出しており左側方運動時にも咬頭干渉が認められた。また24〜27にAスプリントによる暫間固定が行われていた。
全顎的に4㎜以上の歯周ポケットを認め15, 17, 22, 26〜28には7㎜以上の歯周ポケットを認めた。
また14〜17, 23, 24, 26, 27, 34, 35, 43, 45に不適合鋳造冠を認めプラークリテンションファクターとなっており、PCR は65.2%であった。14, 17, 31, 34, 41〜43にMillerの分類1度、24, 26, 27, 35に2度、45に3度の動揺を認め、17, 26〜28にLindhe&Nymanの分類3度の根分岐部病変を認めた。
デンタルエックス線所見では歯根長1/3以上の歯槽骨吸収像を多数歯に認め17, 26〜28, 35は根尖までおよぶ骨吸収像を認めた。その他31〜33, 41〜43根尖部に透過像を認めた。
全身的リスク因子
特になし
局所的リスク因子
- プラークコントロール不良
- 不適合補綴物
- 過蓋咬合
臨床診断
広汎型重度慢性歯周炎(2006年日本歯周病学会の分類に準ずる)
治療計画、治療目標(初診時)
①患者教育とモチベーション
プラークコントロールの重要性および欠損歯放置による外傷性咬合の為害作用を認識させる
②感染源の除去
ブラッシング指導、全顎的なスケーリング・ルートプレーニングおよび18, 26〜28, 45を抜歯
③プラークリテンションファクターの除去
14〜16, 22, 23, 31〜34, 41〜43の不適合鋳造冠の除去
④暫間固定
下顎前歯部の暫間固定および欠損部に対する治療用義歯の装着
⑤歯周外科
再評価後、残存する歯周ポケットに対する歯周外科処置
⑥口腔機能回復治療
再評価後、口腔機能回復治療(35〜43に対する連続前装鋳造冠装着、17, 25〜27, 36, 37, 44〜47の対する可撤性部分床義歯の装着)
⑥メインテナンスへ移行
歯周外科手術の種類とその術式選択の目的
32〜35, 42, 43は4㎜の歯周ポケットを認めたため審美性を考慮しフラップキュレッタージを行う事とした。21近心および23口蓋側に垂直性骨欠損が認められた事から自家骨移植術を併用したフラップ手術を行う事とし、24は根尖に及ぶ歯槽骨吸収が認められたため予後が不良であると判断し抜歯した。
治療時の留意点(治療計画の修正等)
初診時の治療計画では35に全部鋳造冠を装着し保存する予定であったが、歯周外科後の経過観察中に歯根が破折したため保存不可能と判断し抜歯した。また31〜33, 41〜43はMillerの分類1度の動揺を認めたが基本治療後動揺が収まったため、連結冠による一次固定は行わず単独冠による補綴を行うことした。
治療経過
2011年2月から2011年5月
患者教育、口腔清掃指導、暫間固定、咬合調整、歯肉縁上スケーリング
2011年5月から2011年12月
全顎的なスケーリング・ルートプレーニング、不適合鋳造冠の除去およびプロビジョナルレストレーションによる暫間固定(14〜16, 22, 23, 31〜34, 41〜43)、感染根管治療(16, 31〜33, 41〜43)
2012年2月
31〜35, 41〜43に対するフラップキュレッタージ
2012年3月から2012年4月
17, 26〜28抜歯後、治療用義歯を装着
2012年5月
21〜23に対する自家骨移植術を併用したフラップ手術および24抜歯
2012年6月から2012年12月
抜歯(35, 45)、14〜16, 22, 23に対し全部鋳造冠および前装鋳造冠を装着、17, 24〜27, 35〜37, 44〜47に対し可撤性部分床義歯を装着
2013年2月から
メインテナンスへ移行
今後起こりうる問題点
初診時、前歯部の被蓋が深くアンテリアガイダンスが確立されていなかったことから、口腔機能回復治療時に咬合挙上を行いアンテリアガイダンスを確立した。
また可撤性部分床義歯の鉤歯となっている残存歯への負担過重が考えられることから義歯内面の適合状態および緊密な咬合状態の維持が必要であると考えられる。
メインテナンス時の問題点とその対応
患者はモチベーションが高くプラークコントロールは良好に維持している。義歯未装着時にはバーティカルストップが喪失し前歯部への過重負担が予想されるため睡眠時も含めた長時間の義歯の装着を指示している。
また経時的な顎堤形態の変化による義歯床内面の不適合が鉤歯への負担過重となる事から厳密な義歯床内面の適合および咬合の管理を継続して行っていく予定である。
症例写真
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