歯槽膿漏と歯周病は同じです。
歯周病と一口に言っても軽度のものから重度のものまで4段階に分けることができます。まずはよく見られる代表的な症状を症状の進行具合に分けてご説明していましょう!
歯肉炎
歯肉炎は厳密に言うと歯周病ではありません。
歯周病になる直前、それまで健康だった歯ぐきが病的な変化を起こし始めた段階、それが歯肉炎です。
歯肉炎の代表的な症状には次のようなものがあります。
- 歯ブラシすると歯ブラシに血が付く。
- 歯がしみる。
歯肉炎とは歯ぐきが一時的に腫れてしまった状態です。
プラークと呼ばれる汚れが歯についた状態が1週間ほど続くことで起こります。
歯ぐきのすぐ真下にはたくさん血管が通っていて、炎症が起きると血管がもろくなって、ちょっとした刺激でも破れやすくなってしまいます。
そう!歯ブラシを当てただけでも破れてしまうくらい血管が弱っている状態が歯肉炎という病気なんです。
そして歯肉炎で腫れた歯ぐきが歯から少し剥がれ、根っこが露出するため、冷たい刺激でしみる事があります。
これを知覚過敏とも呼びます。
歯根(薄いオレンジ色の部分)は濃いオレンジ色の部分から神経の枝が出ているためとても敏感で、温度の変化を痛みとして感じる。
初期の歯周病
歯肉炎を放置すると歯周病へと進行します。
歯肉炎から歯周病になるのにどれくらい時間がかかるのかは実はまだ解明されていません。
しかし歯周病に移行するという事だけは確かです。
初期の歯周病の症状は歯肉炎と似ていますが、原因となるプラークが歯の植わっている骨まで達してしまっている事が違います。
中期の歯周病
中期の歯周病はプラークがさらに奥深く入り込んだ状態です。深さでいうと根っこの半分くらいのところまで進んでしまった状態。
症状としては次のようなものがあります。
- 歯が浮いた感じがする。
- 噛むと歯が動く気がする。
- 食べ物を噛むと痛む。
- 最近、歯の位置が変わってきた。
①、②の症状は歯を支える骨と歯を骨に繋ぎとめる靭帯が失われることによって起きます。
この靭帯のことを『歯根膜』と呼びます。
そしてこの歯根膜にも神経が通っています。プラークにより炎症が歯根膜にまで及ぶと歯根膜はいつもの刺激でも痛みを感じるようになります。
それが③の「食べ物を噛むと痛む。」です。
④は骨と歯根膜が失われ、歯が噛む力に耐えられなくなることによって起こります。
紫色の部分が歯を支える『歯槽骨』。青色が歯と骨を繋ぎとめる『歯根膜』。歯根膜にはたくさんの神経が通っていて炎症を起こすと普通の噛む力でも痛みを感じる。
晩期の歯周病
晩期の歯周病はプラークによって歯を支える骨『歯槽骨』が根っこのほぼ先端まで溶かされてしまった状態です。
初期の歯周病からここまで進むのには数年の時間を要します。
しかし、ここまで致命的な痛みを伴わないため歯科医院へ通院するきっかけが無いまま放置してしまっている方が非常に多いです。
特に男性は仕事が忙しいためかこの傾向が強く、定年退職をきっかけに歯科医院を訪れた際に重度の歯周病であることが発覚することが非常に多いです。
定年退職後の貴重な人生のフリータイムを通院に費やすケースは珍しくありません。
女性もやはり60歳代で重度の歯周病が発見される方が多いですが、男性と比べると軽症な方が多い気がします。
おそらく女性はご自身の健康に気を使ってうまく通院する時間を確保しているのだと思います。
晩期の歯周病の症状をまとめます。
- 舌で触っただけで歯が揺れる。
- 強い口臭を家族から指摘された。
- 歯ぐきがよく腫れる。
- ものが噛めない。
これらの症状は今までと同じく歯槽骨と歯根膜を喪失することにより起きます。
今までと違って特徴的なのが、②の家族から指摘です。
基本的に口臭をはじめとする体臭は自分では感じにくいです。
しかし、定年退職を迎えご家族と過ごす時間が増える事により、口臭を指摘される機会が多くなるようです。
いま挙げた自覚症状の中で当てはまる項目はありましたか?
もしも1つでも当てはまる項目があれば、それは健康から外れて病気にかかっています。
歯周病はどこに起きるの??
「歯周」とは読んで字のごとく、『歯の周りの病気』に起きる疾患の事を指し、次の3つの部位に発生します。
- 歯槽骨(歯の植わっている骨)
- 歯根(歯の根っこ)
- 歯根膜(歯を支える靭帯)
この3つのどれかがダメージを受けることを歯周病と呼び、日本人の5人に4人(国民の80%!)がかかっている病気です。
それほどまで多くの人が罹患しているにも関わらず、関心が高くないのは、かなり進行するまで『痛み』や『腫れ』といった症状が出にくいからです。
そのためみなさん一人ひとりが歯周病に関する正しい知識を持つことが大事な歯を守るための第一歩です。
歯周病の原因は??
歯周病の一番の原因は『プラーク』です。そこで今回はこのプラークについてもっと掘り下げてみましょう!敵を知れば自ずと解決法が見えてくるはず!?
そもそもプラークって何??
プラークとは分かりやすく例えると、台所の排水溝にあるヌメリだと思ってください。
1mgのプラーク中に約500種類の細菌が約10億匹もひしめき合っています。天文学的な数字ですね!!
そして彼らも私たち人間と同じく社会を作り、団地のような住居を作り上げています。
細菌の理想のすみかバイオフィルム
この細菌の作り上げた住居の事をバイオフィルムと呼びます。
細菌たちは自らの体から水に溶けにくい物質を出してお互いにくっつき合い、薄い膜のような物体を作ります。
この薄い膜の中には細菌にとって栄養になる物を取り入れ、いらない物を吐き出す上下水管のような構造が入っています。
化学物質をはねのける強靭な壁
今までで最も多かったのが『薬で何とか治せないか?』という質問です。その答えは『治せません。』
その理由をこれから述べていきましょう。
まずバイオフィルムは水に溶けない物質で出来ています。よって殺菌剤が深くまで浸透できません。
加えて細菌にとって邪魔なものを廃棄するための下水管がわずかに浸透した化学物質をも排出してしまいます。
さらに血液も浸透できないため、細菌たちを退治するために生まれた白血球たちもその役目を果たす事が出来ません。
チタン合金の表面に人工的に付着させたバイオフィルムの電子顕微鏡画像。
全体を覆っているふかふかしたものがバイオフィルム。
バイオフィルムを破壊する唯一の手段
無敵のように感じるバイオフィルムですが、破壊できる方法があります。
それが『ブラッシング』です。
原始的ですが歯ブラシでこすって物理的に破壊してしまう事が最も効果的で確実な方法なのです。
最も効果的なバイオフィルムの破壊方法
私がこれまで数多く行ってきた方法で最も効果的にバイオフィルムを破壊できる方法をお教えしましょう。
それは『ソニッケアー』を使う事です!
後述しますが、ソニッケアーはその他の電動歯ブラシとは一線を画します。
もしも、あなたが電動歯ブラシを買う事を検討しているのであれば、間違いなくソニッケアーを買いましょう。ソニッケアー以外を買うのなら、手磨きで十分です。
プラーク中にはどんな細菌がいるの??
酸素が『得意』な菌と『苦手』な菌
プラークの中には500種類にも及ぶ細菌がいますが、実際歯周病に直接かかわっているのはおよそ10種類だと考えられています。
細菌は大きく分けて2種類に分類する事ができます。
「酸素」がある状況で生きられる菌と死んでしまう菌です。
この酸素があっても大丈夫な菌の事を『好気性菌(こうきせいきん)』と呼びます。
一方、酸素があると生きられない菌の事を『嫌気性菌(けんきせいきん)』と呼びます。
健康な人に多い『好気性菌』
一般的に健康な方のお口の中には好気性菌が多く生息しています。
私たちの生活の中で例えると、『酵母』や『乳酸菌』はこの好気性菌に属します。
口の中だと虫歯の原因となる『ミュータンス菌』などがそうです。
ミュータンス菌は確かに虫歯を発生させますが、健康的で毎日歯ブラシをしている方はその総数が圧倒的に少ないため、虫歯になりにくくなっています。
これは健康的なひと(筆者)の口の中の常在菌を顕微鏡で見たものです。
ピロピロ動いているのが細菌、枝のようなものが集まったものがカビの一種『カンジダ』だと言われています。カンジダは常在菌です。
歯周病の原因菌『嫌気性菌』
歯周病に直接関わっているのが、『嫌気性菌』です。
彼らは酸素が苦手なため、空気が淀んだ場所に好んで住み着き、奥へ奥へと酸素がないエリアへ住処を拡大していきます。
これは中等度の歯周病患者さんから採取したプラークを顕微鏡で見たものです。
ほんの針先の量のプラークでこれだけの細菌がいて、菌の活動も活発です。
嫌気性菌たちの穴場スポット『歯肉溝』
様々な研究からこの嫌気性菌たちの潜んでいる場所は分かっています。
それは『歯肉溝(しにくこう)』です。
細菌たちはこの酸素の薄い歯肉溝の中でバイオフィルムを作り、生息しています。
緑色の矢印が『歯肉溝』。健康な歯ぐきは深さが3㎜あるが、
歯周病にかかると深くなっていき、菌の生息範囲が広がる。
歯周病はどうやって治すの??
なかなか退治できない歯周病菌
歯周病を治療する上で、大事な数字があります。それは「3」です。
健康的な歯肉溝の深さは『3㎜』そして歯ブラシで磨ける溝の深さも約『3㎜』だと言われています。
歯周病が進行していくと溝の深さも4㎜、5㎜と深くなっていくため、歯ブラシが届かず歯周病が進行し続ける負のスパイラルに陥ります。
うがい薬の歯周病菌に対する効果は?
うがい薬に関しても様々な研究がなされ、約0.1㎜の深さまでしか到達しないことが分かっています。
加えて、細菌の作り出すバイオフィルムは化学物質にとても強いですから、歯肉溝の中にいる細菌に対してはほぼ効かないと考えるべきでしょう。
しかし使う使う意義はあります。
リステリンやGUMデンタルリンスといった洗口剤は殺菌効果の他にバイオフィルムを溶かす作用があります。
リステリンはバイオフィルム内部まで速やかに浸透し、バイオフィルムに対する殺菌力が優れている薬用マウスウォッシュです。(LISTERIN HPより)
しかし、歯肉溝の奥や歯と歯の間の狭いエリアには届きませんから、それ以外の部位の殺菌を殺菌するつもりで使ってください。
どうやって歯周病を治すの?
歯周病の治療方法は、物理的にプラークを落とすことが一番重要ですが、それで終了ではありません。
多くの場合歯槽骨が溶けてしまっているので、手術を行って歯槽骨を増やす『再生療法』と呼ばれる治療をする必要があります。