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歯周外科マニュアル(TAROPE歯周外科セミナー)
歯周外科セミナーやコースで歯周外科の術式や歯周外科のコンセプトを学びたいとお考えの先生へ。 この記事では、自宅や勤務先でも自分で歯周外科が学べる「歯周外科マニュアル」の解説をしています。 私自身、歯周 ...
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この方はご両親の介護のために自分の歯科治療の時間が確保できずに放置していた患者さんです。
これからの時代こういった方が増えてくるかもしれませんね。
患者概要
年齢・性別
53歳 女性
初診日
2009年10月2日
主訴
悪いところを全て治したい
家族歴
父親が骨髄腫のため亡くなっており、生前は歯科医院に通院する事は数回しかなかったとの事であった。母親は慢性心不全と診断されたが服薬や治療は必要ないとのことであった。また義歯を装着しているとのことであった。48歳の歯科医師の妹がおり口腔内環境は良いとのことであった。
現病歴
これまで大きな疾患は無く、特筆すべき事項は無い。
以前より虫歯が気になり歯科治療の必要性を認識していたが、父親の介護などの事情により歯科医院に通院する時間が無かった。
父親が他界し、時間的な余裕ができた事と母親の介護が近い将来必要となる事が予想されることから、これを機に口腔内全体を治療したいと考え近隣の歯科医院を受診し44の抜歯と35, 45の暫間被覆冠を装着した。
さらに担当医から歯周病に関する専門的な治療が必要であると強く勧められたため当科に来院した。上顎の補綴物は10年以上前に装着しており、34, 36, 37, 46, 47の喪失理由はよく覚えていないとのことであった。
全身所見
体格は中肉中背で栄養状態は良好であった。過度の飲酒習慣や喫煙習慣もなく、家族内に喫煙している者もいないとの事であった。その他特記すべき事項は無い。
口腔内所見
27, 34, 36, 37, 44, 46, 47が欠損しバーティカルストップは維持されていなかったが、アンテリアガイダンスは確立していた。
側方運動時の咬頭干渉は無く、早期接触も認められなかった。口蓋中央部の口蓋隆起と23の咬耗が認められたためブラキシズムが疑われたが自覚は無く、家族から指摘された事も無いとのことであった。
また31, 41の叢生と16, 17, 24, 26の挺出を認め、15は齲蝕により残根状態となっていた。
11〜15, 21, 22, 33に不適合補綴物が認められプラークリテンションファクターとなっていた。PCRは全体の52.5%とプラークコントロールは不良であった。
また歯周組織検査では4㎜以上の歯周ポケットが全体の39.1%を占め、12, 13, 16, 17, 21〜24, 26, 42, 44に6㎜以上の歯周ポケットを認めた。
11, 17, 21, 25, 26, 31, 32, 45にMillerの分類1度、22, 24に2度の動揺を認め、16, 17, 26にはLindhe&Nymanの分類3度の根分岐部病変を認めた。
デンタルエックス線所見では11〜13, 16, 17, 21〜26, 41, 42に歯根長1/3以上の歯槽骨吸収像を認め11, 13, 16, 17, 22, 24, 41に垂直性の骨吸収像を認めた。バイオタイプはThick-Flatであった。
全身的リスク因子
特記すべき事項はない
局所的リスク因子
- プ ラークコントロール不良
- 多数歯に及ぶ不適合補綴物
- 残根歯および欠損歯の放置
臨床診断
広汎型・重度・慢性歯周炎
治療計画、治療目標(初診時)
①患者教育とモチベーション
ブラッシングの重要性および欠損歯放置による外傷性咬合の為害作用の認識
②感染源の除去
ブラッシング指導、全顎的なスケーリング・ルートプレーニング、15, 16, 17, 24, 26の抜歯、プラークリテンションファクターの除去
③暫間固定および治療用義歯の装着
14〜25、33〜35、43〜45に対するプロビジョナルレストレーション固定、15〜17、26, 27, 36, 37, 46, 47に対する治療用義歯の装着
④再評価
再評価後,残存するポケットに対する歯周外科処置(EMDを用いた歯周組織再生療法)および口腔機能回復療法として上下顎に対するコーヌステレスコープ義歯の装着を行う
⑤メインテナンスへ移行
歯周外科手術の種類とその術式選択の目的
11〜13, 22, 25, 41に垂直性骨欠損を認めた事からエナメルマトリックスデリバティブを用いた歯周組織再生療法を行っていく事とした。
治療時の留意点(治療計画の修正等)
当初、下顎にコーヌステレスコープ義歯を装着する予定であったが、歯周基本治療後に31〜33, 35, 41〜43, 45の病的動揺が消失し歯周組織が安定し永久固定の必要は無いと判断したため、コーヌステレスコープでなく可撤性部分床義歯にて口腔機能回復治療を行うこととした。
また当初予定した41へのEMDを用いた歯周組織再生療法も再評価後に歯槽骨の平坦化が認められたため行わないこととした。
治療経過
2009年10月から2009年12月
患者教育、口腔清掃指導,暫間固定,咬合調整
2009年12月から2011年4月
口腔清掃指導、全顎的スケーリング・ルートプレーニング
2011年5月
抜歯(15, 24, 26)
2011年6月
11〜13, 21〜23, 25に対するエナメルマトリックスタンパクを用いた再生療法
2012年7月
抜歯(16, 17)、再SRP(41, 42, 45)
2012年11月
上顎コーヌステレスコープ義歯装着
2013年2月
下顎固定性ブリッジおよび可撤性部分床義歯装着
2013年3月から
メインテナンスへ移行
今後起こりうる問題点
現在母親の介護のため遠方から通院しており、容易にリコールに応じる事が出来ない状態である。モチベーションは維持されておりプラークコントロールは問題ないが、大臼歯欠損に対する口腔機能改善治療を行ったことから今後も厳密な咬合の管理が必要であると考えている。
メインテナンス時の問題点とその対応
現在問題は発生していないが、今後起こりうる問題点としてコーヌステレスコープ義歯内冠の脱離が最も発生しやすいと考えられる。
また6ヶ月毎にメインテナンスを行っているが、母親の健康状態により来院が不可能なこともしばしばあるため、長期的なモチベーションの維持および緊密な咬合の管理に努めている。
症例写真
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