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歯周外科マニュアル(TAROPE歯周外科セミナー)
歯周外科セミナーやコースで歯周外科の術式や歯周外科のコンセプトを学びたいとお考えの先生へ。 この記事では、自宅や勤務先でも自分で歯周外科が学べる「歯周外科マニュアル」の解説をしています。 私自身、歯周 ...
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この症例は他院からの紹介でいらしたものです。この症例のように自分では対処しきれない歯周病だと感じたら歯周病専門医に任せるのが良いと思います。
全顎的に重度の歯周炎に罹患しており、全顎的な治療が必要でした。
当初は上下にコーヌステレスコープを使った義歯を装着する予定でしたが、歯周治療の結果、動揺が収まり歯周組織も安定したので、ブリッジとキャストパーシャルデンチャーを使って補綴することにしました。
わたしは根管治療が下手なので、そこが課題です。
患者概要
年齢・性別
48歳 女性
初診日
2009年11月26日
主訴
歯周病を治したい
家族歴
53歳の姉と50歳の兄がおりどちらも全身的な疾患については把握していないが、局部床義歯を装着しているとのことであった。また両親ともに健在であるが、父は高血圧症にて現在投薬治療をうけており、母は脳出血、狭心症、腸閉塞、盲腸の既往歴がある。両親も局部床義歯を装着しているとのことであった。
現病歴
20代のころより花粉症を発症しており、花粉が飛ぶ季節になると市販の鼻炎薬を服用しているとのことであった。過去に高血圧症(収縮期血圧130、拡張期血圧92)と診断されたが、栄養指導や投薬などの治療は受けていなかった。
また糖尿病と診断されたが、HbA1cは6.2%(NGSP値)と基準値の範囲内であり特に治療の必要はないとのことであった。
数年前より多数歯にわたる歯の動揺を自覚したため近隣の歯科医院を受診するも齲蝕に対する治療のみで歯周病に関する治療や説明は全く無かったため、歯周病の精査を希望し当科へ来院した。
現症・全身所見
体格は中肉・中背で栄養状態は良好であった。
前述の通り、高血圧症・糖尿病と診断されたが健康診断時の検査結果では問題は無く、スギ花粉以外のアレルギーは無いとの事であった。
生活リズムは規則正しく、こちらの指示を正面から受け止め自らの口腔内環境をより良くしたいという姿勢が認められた。
過去から現在まで喫煙歴は無く、また過度の飲酒習慣も無いとのことであった。
現症・口腔内所見
13, 22, 23, 33〜43の叢生と15〜17, 45, 46欠損が認められ、18, 47, 48が欠損側へ傾斜していた。また11, 12, 21, 26, 27, 36, 37, 47に前装鋳造冠または全部鋳造冠を装着しており、25, 34, 35, 48には修復処置が行われていた。
バーティカルストップは維持されていたが、アンテリアガイダンスは確立されていなかった。また側方運動時の咬頭干渉は認められなかった。
上顎骨口蓋部に口蓋隆起を認めたため本人とその家族にブラキシズムについて確認したが、無いとのことであった。
全体の61.9%に及ぶプラークの沈着および辺縁歯肉の発赤・腫脹を認めた。また4㎜以上の歯周ポケットが全体の72.4%を占め、7㎜以上の歯周ポケットが全体の33.3%を占めていた。
また全体の62.2%の部位にプロービング時の出血を認め、13, 21, 23, 31, 36, 41, 43, 46からはプロービング時の排膿を認めた。
12, 13, 26, 31, 34〜37にMillerの分類3度の動揺および14, 18, 22, 24, 25, 27, 32, 33, 38, 41〜44, 46, 48に2度の動揺を認めた。
26, 36, 37, 46, 48にLindhe&Nymanの分類3度、18, 27には1度の根分岐部病変を認めた。
デンタルエックス線所見より11〜14, 18, 21〜26, 31〜34, 36, 37, 41〜44, 46, 48の歯根長2/3以上の歯槽骨吸収像を認めた。
リスク因子
- プラークコントロール不良
- 欠損歯の放置
- 多数歯に及ぶ不適合鋳造冠
臨床診断
広汎型・重度・慢性歯周炎(日本歯周病学会の分類に準ずる)
治療計画、治療目標(初診時)
①患者教育とモチベーション
プラークコントロールの重要性および外傷性咬合の為害性の認識をさせる
②感染源の除去
ブラッシング指導、全顎的なスケーリング・ルートプレーニングおよび12, 18, 21, 26, 27, 31, 34〜38, 42, 46を抜歯、プラークリテンションファクターの除去
③炎症の安静化
暫間固定および治療用義歯の装着
④歯周外科
再評価後、残存する歯周ポケットに対する歯周外科処置
⑤補綴
再評価後、口腔機能回復治療(上顎にコーヌステレスコープ義歯、下顎にオーバーデンチャーを装着)
⑥メインテナンスへ移行
歯周外科手術の種類とその術式選択の目的
11, 13, 23, 24に垂直性骨欠損が認められた事から同部に対するエムドゲインゲルを用いた歯周組織再生療法を計画した。
また42, 44に垂直性骨欠損が認められ下顎欠損部顎堤から十分な自家骨を採取できると判断したため42, 44に対する自家骨移植術を併用した32, 33, 41, 42, 44に対するフラップ手術を行うこととした。
治療時の留意点(治療計画の修正等)
当初、下顎は前歯部の叢生および歯冠・歯根比の問題からオーバーデンチャーを装着する予定であった。
しかし再評価時に撮影したデンタルエックス線写真上で垂直性の骨欠損の平坦化が確認され、動揺度も著しく改善したため固定性ブリッジで補綴していくこととした。
そのため歯冠・歯根比が依然として不良で、予後が不良と考えられた41を抜歯し33〜43にブリッジを装着後、可撤性部分床義歯にて遊離端欠損部を補綴した。
また43は歯周基本治療中に動揺度と排膿が悪化し予後不良と考えられたため抜歯を行った。
治療経過
2009年11月から2009年12月
患者教育、口腔清掃指導、暫間固定、咬合調整、歯肉縁上スケーリング
2009年12月から2011年8月
口腔清掃指導、抜歯(21, 26, 27, 31, 34〜38, 43, 46)、全顎的スケーリング・ルートプレーニング、不適合鋳造冠の除去とプロビジョナルレストレーションの装着(12〜22, 14, 24, 25)、および15〜17, 26, 27, 34〜37, 45〜47欠損部に対する治療用義歯の装着
2012年2月
12抜歯
2012年3月
11, 13, 14, 22〜25に対するEMDを用いた歯周組織再生療法
2012年7月
32, 33, 41, 42, 44に対する自家骨移植を併用したフラップ手術
2012年4月
43〜45に対する自家骨移植術を併用したフラップ手術
2012年11月から2013年3月
抜歯(18, 41, 48)口腔機能回復治療(上顎にコーヌステレスコープ義歯、下顎に固定性ブリッジと可撤性部分床義歯を装着)
2013年3月から
メインテナンスへ移行
特記すべき事項
18, 48は咬合高径を維持するために口腔機能回復治療を行う段階まで保存した。
上顎に対する二次固定装置の装着と下顎に対する一次固定装置の装着および可撤性部分床義歯の装着による二次固定効果と咬合支持域の確立および側方・前方運動時の干渉の除去、良好なプラークコントロールにより下顎前歯部での骨稜の改善が認められたと考えられる。
今後は義歯の摩耗等も考えられる事から咬合の管理を注意深く行っていきたい。
メインテナンス時の問題点とその対応
前述のとおり患者はモチベーションが非常に高くブラッシングに関しては問題無いが、今後の課題として上顎のコーヌステレスコープ内冠の脱離の問題や下顎ブリッジ部の歯根の破折など咬合と力のコントロールを厳密に行っていく事が課題と考えている。
また11, 42はデンタルエックス線所見で根尖部に透過像が認められるため経過を注意深く追っていきたい。
症例写真
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