歯周病は、成人のほとんどがかかっている「慢性疾患」です。
歯磨き習慣が大きく影響することから『生活習慣病』の1つと考えて良いです。
そこで今回は、「歯周病を予防したい人」にも「歯周病を治したい人」にもどちらにも役立つ情報を集約してお届け!
じゃあ、早速解説することにしよう! うん、そうしよう!
どれくらいの割合で歯周病にかかっているの?
2009年に政府が行った調査によると、年齢とともに歯周病になる割合が多くなることが分かりました。
70歳の「76%」をピークに年齢が上がるごとに、歯周病の割合が増えてきます。
しかし、80歳になると急に歯周病患者が減って、「56.9%」に落ち込んでいます。
これは、歯周病によって歯が抜けてしまったり、治療として歯を抜いたため歯周病になっていた歯が除去されているためだと考えられます。
実際に、年齢ごとの歯の喪失数をグラフに加えるとよく分かります。
原始人も苦しんでいたかもしれない歯周病!
実は一万年以上も前の地層から出土した「ヒト」の化石の骨から、歯周病になっていた跡があることが分かりました。
『歯周病菌』は一万年前から遺伝子的にほとんど変化していないと考えられています。
ある意味、歯周病菌は私たちが先祖から受け取った『負の遺産』なのかもしれません。
手近に観察できる場所として、東京・上野にある『国立科学博物館』がオススメです。
ここには様々な場所で出土した「ヒト」の化石のレプリカが展示されています。
ちなみに上の写真は縄文時代後期、およそ3000年前の縄文人のものです。
見て欲しいポイントは奥歯の歯がなくなり、しかも治った跡がある点です。
つまり、死んだ後に歯が取れてしまったのではなく生前に歯が抜けそれから治るまで時間があったことを意味します。
その他にも、残った歯の周りの骨が半分以上溶けてしまっていることが観察できます。
つまり、縄文人も歯周病に苦しんでいたということです。
今のように衛生環境や抗生物質があったわけではなかったので、命取りになっていた可能性もあります!
『Red Complex』という名前の3悪トリオが原因!
1万年以上も昔から人間を苦しめていた病気にも関わらず、歯周病の研究が本格的に始まったのは1900年代に入ってからです。
アメリカでAAP(アメリカ歯周病学会)が発足し、本格的な研究が始まった当初は、『全ての細菌』が歯周病の原因になると考えられていました。
しかし、1960年代に入り顕微鏡が進歩すると、特定の菌が関与していると考えられるようになり、1970年代に入ると遺伝子による検査法が発達し一気に研究が加速しました。
世界中で多くの研究者が研究を重ねた結果、歯周病には数十種類の細菌が関与していることが分かりました。
そして、その中でも特に悪性度が高い3種類の菌が存在することが分かったのです!
その名も、
- ポルフィロモナス・ジンジバリス
- バクテロイデス・フォーサイス
- トレポネーマ・デンティコーラ
今にも舌を噛みそうな名前が悪役にぴったりです。
専門家の間ではこの3菌種をまとめたチームを『レッドコンプレックス』と呼んでいます。
「レッドコンプレックス」はピラミッドの頂点に君臨し、その配下に『青、緑、紫、黄色、オレンジ』の5つのコンプレックスがいます。
以下、「3悪トリオ」について少し解説しますが、読み飛ばしても構いません。
Porphyromonas gingivalis
「3悪トリオ」の一人 ”ポルフィロモナス・ジンジバリス” (以下、P.g.と略)は『ジンジパイン』という酵素を産生します。
骨は「鉄筋コンクリート」の建物でいうところの『コラーゲンでできた鉄筋』と『カルシウムでできたコンクリート』で構成されています。
ジンジパインは、この鉄筋にあたるコラーゲンをバチンバチン切断してしまいます。
その結果、骨が骨ではなくなってしまい、吸収されてしまうのです。
Bacteroides forsythus
”バクテロイデス・フォーサイス” (以下、B.f.)も『トリプシ様プロテアーゼ』というタンパク質を分解する酵素を産生します。
トリプシンとはもともと体の中にある肉を消化する酵素です。
Treponema denticola
”トレポネーマ・デンティコーラ”(以下、T.d.)は、体の免疫反応を起こさせない様にする能力があります。
この効果は、T.d.だけでなく他の菌に対する免疫応答も抑制してしまうため他の菌もますます増えてしまう状況を作り出します。
ドラクエで言うところの「ラリホーマ」が使えるキャラです。
敵にすると以外と厄介ですよね。
三悪も配下の細菌がいないと思いっくそ『悪』できない!
とても悪性度が高い3悪トリオのチーム「レッドコンプレックス」ですが、実は子分たちがいないと悪に徹しきれない奴らだということも分かっています。
この辺は人間の世界でもよくあることですね。
実は3悪トリオに限らず、多くの菌は「歯の表面」や「歯ぐき」に直接るくっつく事が出来ません!
しかも、「3悪トリオ」達は『新鮮な空気がある状況』だと生きられないのです。
そこで、まずは『歯にくっつける能力がある子分たち』が歯に付着します。
そこに次々と他の子分達がくっついていき、巣の中の空気に酸素がない状態を作り出します。
こうして3悪トリオ達が思いっくそ暴れられる状況が出来上がるのです。
ちなみにこのバクテリア達が作り上げた巣の事を『バイオフィルム』と呼びます。
このバイオフィルムに様々な細菌に死骸や剥がれ落ちた口の中の細胞などが固まったものが『プラーク』です。
『歯周病』には2つのタイプがある!
まず歯周病の前段階として『歯肉炎』があります。
そして、歯周病は大きく分けて2種類のタイプが存在します。
「慢性歯周炎」と「侵襲性歯周炎」です。
歯肉炎
歯肉炎は『歯周病』になる直前の状態です。
純粋な歯肉炎の状態はとても珍しく、多くは「歯肉炎」、「歯周病」両方が混在していると考えるべきです。
上の写真は分かりにくいかもしれませんが、『歯肉炎』になっている状態です。
一見綺麗に見える歯もプラークを染め出す液を使うと下の写真の様に磨き残しがたくさんあることが分かります。
プラーク1mg中にバクテリアが「1億匹」いると言われています。
「歯肉炎」はこの状態が1週間続く事で発生します。
予防する唯一の方法は、「磨き残しをなくす事」です。
それ以上もそれ以下もありません。
慢性歯周炎
下の写真の様に日本人の多くが罹っているのが、『慢性歯周炎』です。
主に30歳代から病気が進行しはじめ、70歳代にピークを迎えるタイプの歯周病です。
比較的ゆっくり進むのが特徴です。
「慢性歯周炎」はきちんとお口の中のケアをする事で、十分予防する事ができます。
たろぺの経験上、9割以上の患者さんがこのタイプに属します。
侵襲性歯周炎
慢性歯周炎が60歳代、70歳代に多いのに比べて、『侵襲性歯周炎』は30歳代の方に多いタイプです。
しかも、進行が早い。
下の写真はよく見ると全部の歯から膿が出ています。
実は、『侵襲性歯周炎』の原因はよく分かっていません!
というのは、宿主(患者さん)の遺伝子が関係しているかもしれないからです。
また、さっき出てきた ”3悪トリオ” の他に、『A.a.』という細菌が強く関与しているとも考えられています。
このA.a.は『ロイコトキシン』という、免疫の中心である『白血球』を殺したり、機能させなくする物質を産生します。
ドラクエで言うとザラキを唱える「デスピサロ」的な存在ですね。
たろぺも臨床の現場で細菌検査をして、A.a.が検出されると緊張が走ります。
しかし、侵襲性歯周炎でない人にもA.a.がいる事があるため、歯周病になる人とならない人とでどういう違いがあるのかの研究が進められています。
この辺もザラキが効く効かないと似てますね!
ちなみにA.a.は『アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス』の略です。
悪そうな名前ですね!
まとめ
歯周病は1万年も前から私たちの祖先を苦しめてきた病気です。
しかしその研究が本格的に始まったのはたった100年前から。
まだわからない事が多い状況です。
しかし、唯一言える事は歯周病は『細菌感染症』だという事。
だからまずは患部を清潔に保ち安静にするために歯磨きを徹底して行う様にしましょう!